箱根の高級旅館が繰り出す「人手不足」解決の秘策 人口減で働き手がいない町の「逆転の発想」とは?

日本屈指の温泉地・箱根。新宿から特急列車で90分、そのアクセスの良さから日本人観光客だけではなく、インバウンド客(訪日外国人客)にも絶大な人気を誇っている。2022年には1736万人が箱根を訪れた。コロナ前の2126万人には及ばないものの、2021年からは3割近く増加した。

一方で、ホテルや旅館は人手不足が深刻化している。「人手不足で稼働を8割程度に抑えざるをえない」という相談が箱根町役場に寄せられているという。

 箱根はまもなく紅葉の繁忙期を迎える。宿泊施設はどのように人手不足に対応しようとしているのか。 ■従業員にとっても働きやすい仕組み  箱根で業界の常識を覆す取り組みをしている旅館がある。強羅にある高級旅館、「強羅花扇 円かの杜(まどかのもり)」だ。20の客室では部屋付きの露天風呂を楽しむことができ、宿泊価格は9万2000円からとなっている(大手オンライン旅行予約サイト)。箱根の入り口ともいえる箱根湯本から山間へ車を走らせること30分ほどの場所にある。

 宿泊客の評判が高い旅館だが、その裏側には従業員にとっても働きやすい仕組みがある。  円かの杜の最大の特徴は、従業員のシフトにある。通常の旅館やホテルは宿泊客からの予約があり、その予約数に応じて従業員のシフトを組んでいる。  だが、円かの杜の発想はその真逆だ。先に従業員のシフトを決め、その日の従業員の出勤状況に合わせて客室の稼働数を変動させている。具体的には1カ月前までは最低限の客室のみの予約を開放し、従業員のシフトが決まってから、20室ある客室の本格的な販売を始める。

 「社員を獲得するためには労働環境を整え、(社員にとって)魅力的な会社にしないといけない。2017年ごろからしっかりと休みを取れるように制度を整えた」と、女将の松坂美智子氏は制度改革をした狙いを明かす。 ■多くの宿泊施設はこの販売戦略を採用していない  繁忙期でも従業員に無理なシフトや業務量を強いることはないこの制度は画期的ともいえるが、多くの宿泊施設はこの販売戦略を採用していない。  客室を満室稼働できないということは、機会損失につながり、旅館やホテルの売り上げを最大化できないからだ。多くのホテルや旅館は、ときには客室を安売りしてでも稼働率を8割など一定に保つよう努力している。

だが客室の高稼働を保つにあたって、ボトルネックとなるのが人手不足。箱根が抱える人手不足問題は、東京や地方都市のホテルよりも深刻といえる。宿泊施設が増加している反面、人口減少が続いており、「募集をかけても人が集まらない」状況が常態化している。  近年、箱根では宿泊施設のスモールラグジュアリー化が進んでいる。箱根町が発行している「統計はこね」によると、2013年には197軒あった旅館・ホテルが2022年には207軒と10軒増加した。こうしたホテルはきめ細かなサービスを行う必要があるため、規模に対して人員を多く雇う必要がある。

 一方で、箱根町の人口は1万965人(2023年10月1日時点)と決して多くない。また2013年と比べると生産年齢人口(15歳~64歳)は2割以上減少した。  シフトが変則で山間にある箱根で働くには、住み込み勤務が基本となる。独立系の零細宿泊施設が多く、募集条件が都心のホテルなどと比較すると厳しい。また不動産会社系や国内名門ホテルと比べ知名度で劣っている。広告を打つにも、財務基盤が脆弱な零細宿泊施設にはその余裕はない。

 派遣社員を雇うのも簡単ではない。「派遣社員の単価が上がっており、時給換算では現場の正社員と給料が逆転している。派遣社員を配置しても現場社員の不満を高めるだけ」と箱根のホテル関係者は指摘する。 ■従業員に当事者意識を持たせる戦略  そこで箱根の宿泊施設は「いかに従業員を雇うか」ではなく、「いかに従業員を辞めさせないか」へとシフトをしている。「箱根強羅 白檀」も従業員の離職防止に力を入れる施設の1つだ。同施設が重視していることは、従業員に当事者意識を持たせることである。

 「人手不足の時代ということもあり、寮完備や休暇が多いなどの『条件』を見て就職先を選ぶ人が多い。そうした人に当施設で目的意識を持ってもらうために、仕事を任せることを大事にしている」と、運営マネジャーの内田拓氏は説明する。  具体的には、「従業員のアイデアをそのまま施設の施策として導入してしまう」という大胆なものだ。  白檀のラウンジにはコーヒーメーカーやティーバッグが置いてある。その中にあるハーブティーは4年目の従業員の発案によるものだ。自らが販売店に仕入れ交渉をし、自らブレンドした商品を売店でも販売している。

「仕事を任せることで面白さを知るだけではなく、コスト意識なども身につく」と内田氏は成果を口にする。実際、2016年に開業した当初の離職率は50%程度あったというが、現在は1割台と低水準で推移しているという。大手ホテルでも離職率は3割ほどだ。 ■人材が定着することで、接客レベルも向上する  離職防止のメリットは人手不足の解消だけにとどまらない。「常連客は特定の人に就くため、リピーターの増加、人材が定着することで習熟度が高まり接客レベル向上なども期待できる」と、宿泊施設に特化したビジネススクール宿屋大学の近藤寛和氏は指摘する。

 これまで多くの宿泊施設は稼働率を高めることを重視してきたが、その販売戦略が従業員への負担を高め、人手不足を助長してきた。人手不足が深刻化するいま、宿泊施設には顧客満足度だけではなく、従業員満足度を高める経営が求められている。(東洋経済オンライン 参照)

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