4人に1人が勤め先「0点」?高卒就職の怪◆3年で4割退職、背景に見えたもの

高校を出て就職する「高卒人材」の早期離職率が高止まりしている。4割が3年以内に離職し、4人に1人は就職先を「0点」と評価ー。ある調査で、そんな結果が出るほど、就職先と希望のミスマッチが生じているという。いったいなぜ。生徒や教諭、専門家に取材すると、大卒人材の就職活動とは異なる「慣行」が背景に浮かんできた。(時事ドットコム編集部 太田宇律)

◆内定が出たら「必ず入社」  2023年7月、来春卒業する高校3年生の就職活動が事実上スタートした。さいたま市内の大型施設では、埼玉県内の高校生を対象にした「合同企業説明会」が開かれ、県内の企業を中心に188社がブースを出展。生徒約1400人が「一生の仕事」を求めて会場を回り、担当者の説明に聞き入った。  就職希望の高校生は、親や知人の会社に就職するなど、学校を頼らずに進路を決めることもできるが、大半は学校に集まった求人票に応募するなどして就職活動を進める。その場合、同時に応募できる企業を制限する「1人1社制」や「内定辞退の原則禁止」といった慣行に従う必要がある。合同説明会の参加者も同じだ。  会場を訪れた県内の商業高校3年の男子生徒(18)は「体を動かすのが好きなので、製造業に興味がある。内定が出たら必ず入社しないといけないので、きょうは慎重に見極めたい」と話した。今後、就職したい企業を第3希望まで書いて学校側に提出するが、どの社を受けられるかは学校の選考会議で決まるという。  他校の生徒もおおむね同様の説明を学校側から受けており、ある女子生徒(18)は「なぜそういうルールなのかは知らないけど、そんなものなのかな」と話した。

 「1人1社制」をはじめとした就活ルールは毎年、国や都道府県と経済団体、学校の関係者らでつくる「高等学校就職問題検討会議」での申し合わせで決められている。埼玉県の場合、来春採用の選考開始は9月16日。9月末日まで「1人1社制」で、10月以降は事業主が承諾した場合のみ、原則2社まで併願が認められると決まった。

厚生労働省によると、こうしたルールは、「できるだけ多くの生徒に応募の機会を与え、教育への影響を最小限にとどめる短期間のマッチングを可能とする仕組み」として、半世紀以上続いてきた。だが、ルールに従えば、第1希望でも面接すら受けられない生徒も出てくる。同省と文部科学省は20年2月、1人1社制見直しの検討を促す報告書を発表したが、議論が進んだとは言い難い現状があるという。 ◆やむを得ない?先生の本音  見直しが進まない背景には何があるのか。合同企業説明会の会場で、各校の進路指導担当の教諭らに「本音」を聞いてみた。  「1人1社制などの慣行は、行き過ぎれば生徒の自由を制限することになるが、全ての生徒に内定を振り分けるためにはやむを得ないルールだと思う」と話すのは、ある県立高校の30代男性教諭。「履歴書の書き方や面接対策を指導して1社受けさせるだけで、生徒も指導教諭もいっぱいいっぱいだ」と打ち明け、「もし慣行がなかったら、優秀な生徒が内定を独占して多くの生徒があぶれ、地元企業も人材を確保できなくなる」と話した。  別の県立高校で進路指導を担当する女性教諭は「18歳成年とはいえ、高校生が労働条件を見極めて、自分に合った企業を選ぶのは難しい。家が近かったり、有名だったりする企業に行きたがる子が大半だ」と話す。就職先が合わず、1年もたたないうちに退職してしまうケースも少なくないといい、「卒業後は、学校側からサポートするのにも限界がある。転職先が見つからず、そのまま引きこもりがちになったと聞く子もいる」と心配そうに語った。  教諭らからは「学校がある程度介入しないと、悪質な企業に生徒を送り出してしまうことにもなりかねない」という意見や、「採用活動の開始時期が大学の学校推薦型選抜と重なっており、1人1社制がないと教員の業務量が激増する」といった声も聞かれた。「授業をしながら『就職エージェント』もやるのは大変なんです」。そう言ってため息をつく男性教諭もいた。

文科省の23年3月卒のデータでは、高卒人材の就職率は約98%に上る。慣行により、就活生全体に内定を行き渡らせることには成功していると言えそうだが、その影で問題になっているのが、ルールを「やむを得ない」とする教師たちも懸念する、就職先とのミスマッチだ。  リクルートワークス研究所が20年に行った調査によると、高卒就職者全体の40%が3年以内に最初の企業を退職しており、この4分の1超に当たる10.7%が半年以内の「超早期退職」だった。最初に就職した企業を10点満点で採点してもらったところ、全体の24.1%が「0点」を付けている。  「いろいろな会社と比較したかった」「会社のダメな所を先に伝えてほしい」「何社も受けさせてほしかった」「職場見学がしたかった」「本当に受けたい会社を受けさせてほしかった」-。就職活動でもっと学校にしてほしかったことを尋ねたアンケートには、こんな回答が並んだ。 ◆「1人1社」比較しない危うさ  調査を担当した同研究所の古屋星斗主任研究員は「高卒就職者の半分以上が『1社だけを調べ、見て、1社だけを受けて、1社に内定』していた」と説明した。「企業を見比べて決める経験をしないまま社会に出ると、転職活動のやり方も分からない。正社員として就職した会社を退職し、非正規になった人も少なくなかった」と話す。  早期離職者との面談で、「段ボール製造の企業に就職したが、加工の熱で工場の中が暑すぎてすぐに退職した」「入社してから社員全員参加の運動会があると知り、それが嫌で嫌で辞めた」といった声を耳にし、驚いたという。「職場見学をしたり、先に入社した学校のOBOGと話をしたりできれば避けられたはず。ミスマッチによる超早期離職は、企業側にとっても大きな損失だ」と嘆く。 ◆高卒就職の「特典」使い切って  高校生向けの合同企業説明会を取材していて、気になったことがある。CMなどで有名な企業のブースにはたくさんの生徒が集まる一方で、若者になじみが薄そうだったり、専門性が高かったりする企業のブースは始終閑散としていたことだ。小型モーター用の軸受製造で国内トップシェアを誇る地元企業の担当者は「社名を知っている生徒や、向こうから来てくれる生徒はほぼゼロ。こうした機会にしっかりアピールしたい」と話していた。  「問題の背景にあるのは、高校生にとって、就職に向けた『準備運動』が不足していること。高校3年から突然就活を始めるのではなく、地元企業と学校が連携して、高校1~2年生の段階から職場見学や若手社員との交流といったカリキュラムを充実させる必要がある」。そう語ったリクルートワークス研究所の古屋主任研究員は「教員の負担は既に限界に近い。生徒にキャリアアドバイスできる外部人材を入れるのもよいでしょう。少子高齢化でどんどん貴重になっていく若い人材に、国や自治体がしっかりと投資すべきだ」と提言する。  就活生へのメッセージをもらった。「面接でどんな失敗をしても、学校やハローワークが最後まで寄り添ってくれるのが、高卒就職の『特典』。大人の支援をしっかり使い切って、自分が就きたいと思える仕事を見つけてほしい」(yahooニュース 参照)

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