外国人材、もう安く雇えない 実習生賃金10年で4割増

人手不足の深刻化で外国人材の存在感が増している。日本人が集まりにくい業種を中心に採用のニーズは強い。技能実習生の平均賃金は10年前の1.4倍となり、日本人の若者との格差は縮小している。今後は新興国の賃金上昇で、海外の若者が期待する水準も上がる。生産性を高め日本国内で賃上げを進めなければ人材確保はおぼつかなくなる。

10月上旬、埼玉県内のマンション建設現場で、ベトナム出身のダウ・カオ・チュンさん(22)が天井や壁の隙間に断熱材を注入していた。技能実習生として2022年春に来日。月収20万円超で12万円を両親に送金しているという。

勤務先の専門工事業、フジマテリアル(埼玉県春日部市)は15年ごろから実習生の採用を始めた。今や従業員18人のうち5人が外国人。大久保健二社長は「日本人の若者はきつい仕事になかなか応募してこない。外国人がいなければ仕事が回らない」と話す。報酬は日本人社員と同等で、在留資格「特定技能」に移って働く5年目のベトナム人男性は給与が40万円近くになる月もあるという。

外国人材の賃金水準は上昇している。国際人材協力機構(旧国際研修協力機構)が集計した2012年の技能実習2号(2〜3年目)の平均賃金は12万5千円。国は19年から外国人労働者の賃金統計を公表し、22年の賃金構造基本統計調査では実習生の所定内給与は17万8千円で4割増えていた。

高卒初任給の98%、手数料上乗せも

出入国在留管理庁の調査によると、実習生のうち大卒は15%で、中卒や高卒、専門学校卒などが8割超を占める。実習生の平均賃金を日本人の高卒初任給と比べると10年前は76%だったが、直近は98%と差が大幅に縮小した。

実習生の雇用企業は賃金に加え、受け入れ窓口の「監理団体」に手数料(監理費)を支払う必要がある。入管庁などの実態調査を基に残業代を含む平均賃金に月々の手数料を上積みすると、実習生の平均年齢に相当する20代後半の高卒労働者とほぼ同水準だった。

技能実習の実態に詳しい万城目正雄・東海大教授は「かつて実習生が働くのは賃金水準の低い縫製業などが多かった。ここ10年で製造業や建設業など賃金が比較的高い業種に広がった結果、平均額が上昇した」と説明する。製造業と建設業で働く人のうち外国人はそれぞれ4%超、2%超を占める。

少子化と大学進学率の上昇の影響もあり、現場で働く日本人の若者は減少している。

文部科学省の調査によると、22年の大卒就職者は約44万人で30年前(約35万人)より2割以上増えた。対照的に高卒就職者は22年に約15万人と30年前(約60万人)の4分の1になった。厚生労働省によると、24年卒業予定の高校生の求人倍率は3.5倍とバブル期を超える水準だ。

「特に地方で、地元企業に就職する若者が減った。手数料を含めると人件費は高いが、外国人がいないとたち行かない」(同教授)

人手不足で実習生の賃金が上がる一方、高卒初任給がそれほど上がっていないのはなぜか。企業の高卒採用を支援するコンサルタント会社、ハリアー研究所(大阪市)の澤田晃宏社長は「情報量の違いが大きい」と説明する。

技能実習生らはSNS(交流サイト)などで情報交換する。業種や地域ごとの賃金相場を下回る条件で求人を出しても人が集まらない。高校生向けの求人情報は厚労省がネット上で公開しているが、アクセスできるのは高校教師や生徒に限られる。澤田社長は「企業は他社の給与水準が分からず、競争原理が働きにくい」と話す。

専門的な技術や知識をもつ高度外国人材は賃金水準がさらに高い。22年の賃金構造基本統計調査で「専門的・技術的分野」(平均31.9歳)の所定内給与は29万9600円。同年代である30〜34歳の28万1000円を上回る。

新興国の経済成長、賃金水準底上げ

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、50年の18〜34歳は1569万人と23年比で26%減る。需要が高まる外国人材の人件費は上昇が見込まれる。送り出し各国の賃金水準が経済成長で底上げされるからだ。

来日する実習生が多い上位3カ国では、ベトナムの22年の平均月額賃金が320.9㌦と12年(179.5㌦)から約8割増えた。インドネシアは181.2㌦(同1.2倍)、21年のフィリピンは315.3㌦(同1.3倍)だ。

新型コロナウイルスの入国制限の影響がなくなり、実習生らの来日は過去最多ペースとなっている。日本との賃金差は大きいが、新興国で上昇すれば日本で働く魅力が薄れる恐れがある。日本人からも外国人からも選ばれる賃金や労働環境の実現が求められる。

人手確保、「稼ぐ力」欠かせず

政府の有識者会議は技能実習と特定技能の両制度の見直しを議論している。今秋に公表する最終報告書は人権侵害の防止が最大のテーマ。企業側の責任が重くなり、外国人雇用のコストが一段と増す可能性がある。人材確保に向け、生産性の向上が欠かせない。

技能実習は日本で学んだ技能を途上国に移転する「国際貢献」の理念を掲げてきた。技能習得には同一の職場で働く必要があるとの考えから転職は原則禁止。職場に不満があっても別の実習先に移れない仕組みが人権侵害の温床と批判され、年間数千人が失踪する要因と指摘された。

技能実習に代わる新制度案は同一企業で1年超の就労などを条件に本人の意向による転職を可能とする。育てた人材のつなぎ留めには企業側の処遇改善などが必要となりそうだ。来日費用を借金で賄うことが多い実習生の負担軽減のため、企業側に一定の手数料支払いも求める。制度見直しが採用コスト増につながる可能性が高い。

外国人材を安く雇うことで、企業などが人件費を抑えてきた面もある。しかし、企業活動での人権侵害防止を重視する世界的な風潮のなか、失踪が多発する制度を続けるのは困難との見方が多い。

政府は人手不足対策として、在留資格「特定技能」で長期就労できる「2号」の対象分野を大幅に広げた。「稼ぐ力」を強化し、スキルを身につけながら長く働いてもらう環境を整える必要がある。(日経電子版 参照)

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