技能実習なぜ「転職可」に? 人権を重視、企業は負担増

技能実習制度などの見直しで、政府の有識者会議が18日に最終報告書の「たたき台」を公表した。現行制度はトラブルが後を絶たず、人権保護を重視し待遇改善に向けて大きく修正する内容となった。どう変わり、どんな影響が出そうなのか。3つのポイントでまとめた。

(1)技能実習の問題点は?

技能実習制度は1993年に創設された。日本で学んだ技能・技術を途上国で役立ててもらう「国際貢献」が理念だ。製造業や農漁業、建設業など80職種以上で2023年6月末時点で35万8千人が働く。

人手不足が深刻化し、労働力の穴埋めに使われているのが実態だった。賃金の不払いやパワハラ、暴力といった問題が後を絶たない。国内外から批判されてきた。例えば米国務省は23年6月の人身取引報告書で「移動・通信の自由の制限、パスポートの没収、脅し、暴力などを経験した者もいた」と指摘した。

同一職場で働き、計画的・効率的に技能を習得すべきだとの考えから技能実習は原則、転職ができなかった。多額の来日費用を借金で工面している実習生が多く、返済するまでは帰国しづらい。雇用主などに不満があっても我慢を強いられがちだった。

(2)新制度案、今とどう違う?

最大のポイントは転職を容認することだ。▽同一企業での就労が1年超▽国の技能検定「基礎級」に合格▽日本語能力に関する文化庁の6段階の指標で最もやさしい「A1」相当以上――といった条件を満たせば、同一分野に限って本人意向の転職を認める。

これまで技能実習は、人手不足対策で19年に創設された「特定技能」の制度との関係があいまいだった。新制度は、3年間で特定技能1号(最長5年)相当の技能を持った人材を育成する期間と位置づける。技能・日本語の試験に合格すれば、同1号に移行できる仕組みとする。

技能実習は88職種に細分化され、12分野(24業務区分)の特定技能とそろっていなかった。新たな制度では、特定技能にある産業分野以外は受け入れられなくなる。技能実習→特定技能の流れが明確になる。

実習生を保護する機能も高める。受け入れ窓口「監理団体」が十分に役割を果たすよう、許可要件を厳格化。受け入れ企業と監理団体の役職員を兼務するのを制限するなどし、監理団体のチェック機能を高める。並行して特定技能で働く外国人を支援する「登録支援機関」も登録要件などを厳格化するとしている。

コミュニケーション不足がトラブルを招く例は多い。このため日本語能力の段階的な向上を目指す。技能実習の新制度は就労開始前に文化庁の指標でA1以上、特定技能1号は次の水準のA2、長期就労や家族帯同が可能な同2号はさらに上のB1とした。

(3)きちんと機能する?

技能実習に代わる新制度は転職可能となり、働く側の自由度が高まる。細分化していた対象職種を特定技能とそろえて大ぐくりとすることで、今よりは転職の選択肢も広がる。

しかし、日本語が得意でない外国人が、自身で同一分野の仕事を見つけるのは容易でない。

現行制度でも、就労先の経営悪化や人権侵害などやむをえない事情があれば実習先を変えられる。監理団体が転職先を見つける責任を負うが、消極的なケースもある。法務・厚生労働の両省が所管する外国人技能実習機構による転職への支援も年間数十件にとどまる。

転職先探しをどこが支援するか。最終報告書案では新たにハローワークを選んだ。実習生を支援する民間団体からは「現状では外国人のハローワーク利用は少なく、支援ノウハウは乏しい」との声もあり、実効性に疑問は残る。仲介役が機能しないと「転職容認」は絵に描いた餅になりかねない。

実習生が多額の借金を背負う要因、来日前の手数料については受け入れ先企業が一定の負担をする仕組みを導入するとした。コスト増となる企業側からの反発も予想される。

転職容認、手数料の企業負担がかけ声倒れに終われば、問題ある職場で働き続ける状況が残りかねない。人権に配慮した制度に生まれ変われるかどうかは、今後の詳細な制度設計にかかっている。

(日経電子版 参照)

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