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2023年度の最低賃金を決める都道府県の審議会で、国の審議会が示した目安に上乗せするケースが広がっている。日本経済新聞の集計では15日時点で21県が上乗せを決めた。鳥取、島根が目安を7円上回るなど地方で異例の上げ幅が目立つ。物価高や人手不足が賃上げ圧力となっている。
44都道府県の地方審議会の答申を集計した。目安超えの幅でトップは鳥取と島根の7円で、青森と大分、熊本が6円で続く。22年度は3円の上乗せが最高額だった。厚生労働省によると最低賃金が時間給での換算となった02年以降、7円の目安超えは過去になかったという。
目安を下回る答申は現時点で出ていない。47都道府県の答申は8月中に出そろい、10月から適用される見通しだ。
国は地域の経済状態に応じて、引き上げ額の目安を「A〜C」の3段階に分けている。41円の引き上げを求めるAランクの埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪の中で上乗せを決めたのは千葉のみ。残り20県は地方で、他地域との格差縮小を狙う動きが目立つ。
実際の上げ幅で首位は島根の47円。厚労省によると全国で過去最大の引き上げ額となる。鳥取が46円で続く。鳥取労働局は「物価上昇や雇用情勢、中国地方内での格差などを勘案した」とする。適用後に時間給で島根は904円、鳥取は900円となり、目安通りの広島(970円)、岡山(932円)との差が縮まる。
秋田は現行から44円引き上げ、897円とする答申が出た。審議会では経営者側の委員が中小企業の厳しい経営環境や事業継続への影響を懸念し、23円引き上げ876円を上限に審議を進めるよう求めた。一方で労働者側の委員は最低賃金全国最下位から脱却を目指した。
労使の意見は一致せず、中立の立場の委員が流れを決めた。「地域経済の活性化や若年層の流出を防いで労働人口を確保するには、目安に上乗せした金額で改定すべき」として、賛成多数で決着した。
総務省の住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、23年1月1日時点で日本人と外国人を合わせた総人口が増えたのは都道府県の中で東京都だけだった。地方では人口減が深刻で人材獲得競争に拍車がかかる。だからこそ知事らは最低賃金の動向に敏感になっている。
福井県は知事自ら賃上げの旗を振った。杉本達治知事は審議会で議論が続くさなかの3日、福井労働局を訪問した。局長や審議会の会長に対して「目安額を上回る積極的な引き上げ」をするよう異例の要望をした。結果、目安額を3円上回る43円アップの931円の答申に決まった。
茨城県の大井川和彦知事も6月、労働団体や経済団体と賃上げの機運醸成を目的に初めて意見交換会を開いた。42円の引き上げで目安を2円上回ったが、改定後も最低賃金が栃木や千葉の水準を下回る。大井川知事は「今回の結果は近隣他県との格差是正に配慮されたものとは考えられず、極めて遺憾」と危機感を示す。
最低賃金が改定されれば1000円超えは千葉、埼玉、愛知、兵庫、京都が加わり8都府県になる。厚労省の審議会では最低賃金の地域差を最高額に対する最低額の割合で評価する。今回は現状で最低が岩手(893円)、最高が東京(1113円)となっており、その割合は80.2%と8割を超えた。
さらに賃金の低い地方で目安超えが相次いだことで、格差縮小の実感はより強くなる。
東京都の最低賃金は目安通りの41円増で決着した。採決では企業の支払い能力などへの懸念から経営者側の委員4人が反対した。こうした意見も踏まえ答申では、多くの企業が賃上げを実現できるように国の支援強化の必要性を指摘した。
今後は賃金引き上げに苦慮する中小企業の支援が重要になる。厚労省は賃上げした企業の設備投資費用を助成する「業務改善助成金」を拡充する方針だ。加藤勝信厚労相は「最低賃金を上げるだけでなく、生産性向上によって企業の体質強化を図ってもらう」と強調する。(日経電子版 参照)