「同期7割去った」 一流ホテル勤続10年目の苦悩、やる気頼みは限界

「自分たちの仕事に価値を見いだしてもらえない。そう感じて業界に見切りをつけた同僚を何人もみてきた」。東京都内の一流ホテルで働く入社10年目の女性(31)はそう打ち明ける。

レストランのサービススタッフとしての収入は手取りで月25万円ほど。物価高のなか3歳の娘を育てる生活には「(金銭的な)豊かさは感じづらい」。ホテル業は長時間労働や夜勤などの不規則な生活もつきものだ。入社同期はコンサルティングや不動産など待遇の良い別の業界に移り、今は3分の1以下に減った。

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入社6年目、月の稼ぎは20万円

別のシティーホテルのフロントで働く入社6年目の男性(26)も同期の8割が転職した。月6〜7回は休日に出勤し、夜勤の日は15時間以上働いて稼ぎは月20万円。丁寧にサービスしても客から心無い言葉を浴びせられることも多い。「おもてなしの文化といわれるが、無償のサービスが当たり前と思われているように感じる」

産業界を見渡せば、最近は大卒初任給で30万円を打ち出す企業が相次ぐ。手取りとはいえ一定の経験を積んでも20万円台ならば、少なくとも給与面では魅力的な就職先には見えない。

「観光業の賃金水準は他の産業と比べるとスタートラインにも立てていない」。観光関連業界の労働組合でつくるサービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合)の桜田あすか会長も危機感をあらわにする。

「宿泊業、飲食サービス業」離職率は25.1%

サービス連合は2025年の春季労使交渉で、基本給を上げるベースアップ(ベア)と定期昇給をあわせた賃上げ率の要求基準を6%とし、過去最高の5.32%(1万6351円、集計可能な34組合平均)を獲得した。だが他産業との平均賃金の差は大きい。

厚生労働省の25年調査(速報値)によると「宿泊業、飲食サービス業」は月27万7200円。建設業(36万6300円)や製造業(33万円)など他産業と比べて最も低い。

離職率も24年は25.1%と全体平均(14.2%)を大きく上回る。人材が頻繁に入れ替われば施設にノウハウはたまりづらく、しわ寄せは勤続年数が長い一部の人に及ぶ。

なぜ低賃金が続いているのか。観光政策に詳しい米セントラルフロリダ大の原忠之准教授は「旅行会社を通じて低価格で客室を販売し、客を確保する旧来の仕組みが尾を引いている」と指摘する。「経営者は客室を安く売って稼働率を上げることが最善だとし、価格転嫁による賃上げに消極的だった」と話す。

労働環境の改善も道半ばだ。サービス連合が25年11月に実施した組合員約2000人へのアンケートでは、有休の取得日数が5日未満だった人は宿泊業の正社員男性で30%、女性で25%に上った。労働時間が週60時間以上と答えた人は宿泊業の男性で13%、旅行業の男性は18%だった。

労働政策に詳しい早稲田大の黒田祥子教授は「離職していない人もギリギリで働いている。賃上げと労働環境の改善をセットで進める必要がある」と訴える。

処遇改善は不可能ではないはずだ。米ホテル大手のヒルトンは国内で10〜15年後に総支配人を目指す幹部候補生を募集し、初任給は31万8000円を提示する。米マリオットも同じく国内で最短18カ月で管理職になれる制度を設ける。

訪日消費は9.5兆円

原教授は「人手不足と言うが、賃金を含め魅力がそもそも足りていない」と言い切る。改善に向けて動く国内企業もある。森トラスト・ホテルズ&リゾーツ(東京・品川)は23〜25年度にかけて平均11%の賃上げを実施。阪急阪神ホテルズ(大阪市)も25年に子どもの看護休暇の利用範囲を広げたほか、26年4月からは休日数を年120日と6日増やす予定だ。

25年の訪日客は過去最多の4000万人を突破し、消費額(速報)も9兆4559億円と過去最高となった。訪日客消費を「輸出」とみれば自動車の完成品に次ぐ規模となり、有力な外貨獲得の手段だ。その観光業の競争力は宿泊施設の一線で働く人たちによるところも多い。それなのに担い手のやる気頼みでいいのか。

宿泊費を単純に上げれば、物価高に直面する国内客が離れる恐れはある。それでも訪日需要で増えた収益を人件費に回せば、安定した運営やサービス向上につながるといった循環も生まれる。企業は人材投資とそのための事業戦略に本腰を入れる時がきている。

(日経電子版 参照)

  

 





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