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外食業界では人手不足が深刻だ。以前から外国人の働き手が活躍しているが、近年は店長や幹部候補として育成する企業が出てきている。こうした動きを後押しするのが、就労系の在留資格「特定技能」だ。人手不足の産業分野で外国人材を受け入れるために2019年に創設された。1号と2号があり、2号を取得すれば従事できる仕事の幅が広がり、事実上永住もできて家族の呼び寄せも可能になる。どんな人が特定技能2号で働いているのか。受け入れる企業の狙いは。大手外食チェーンを取材した。
人材不足解消とアジア進出する際の幹部候補育成が狙い
丸ごと仕入れたレタスの葉を一枚ずつ丁寧に剥がしていく。カウンターに立って接客しているときも、店のスタッフに指示を出しているときも、笑顔を忘れない。紺色のポロシャツは副店長の証し、彼の誇りでもある。 ベトナム人のチャン・ダン・フンさん(36)はモスバーガー光が丘IMA店(東京都練馬区)で働く。来日したのは2022年のこと。そこから都内の別のモスバーガー店舗で働き、2025年3月、ここに異動してきた。 「モスバーガーの前は福岡の建設現場で3年間働いていました。いったんベトナムに帰国したんですが、日本の生活が魅力的だったし東京にも憧れがあったので、モスフードサービスの『ベトナムカゾク』に応募したんです」 「ベトナムカゾク」とは株式会社モスフードサービスが2019年にベトナムの中部都市・ダナンの短期大学と協力して始めた、ベトナムの人々がモスバーガー店舗で働くための育成プログラムである。
同社執行役員の川越(かわこし)勉さんは、その意図をこう説明する。 「狙いは日本国内での人材不足解消とアジアに進出する際の幹部候補生育成です。ですが、ベトナムの皆さんを単なる労働力とは捉えていなくて、仲間として一緒に働いて成長していく『家族』として迎え入れようと、『ベトナムカゾク』という名称にしました」 研修日数は約50日で、日本の会社で働くマナーをはじめ、衛生管理、調理などを学んでいく。日本語教育も重視していて、毎日、研修の振り返りを1000字程度の日本語でまとめるレポート作成も義務づけられている。 「日本語での会話・読み書きがとても重要ですから。毎日研修に6時間、レポート作成に2時間。それだけ日本語で作文をするのは大変なので、泣きながら書いている人もいます」(川越さん)
「特定技能2号」を取得すれば「店舗経営」も可能に
研修に参加したベトナム人たちがまず目標にするのが、「特定技能1号」という日本で働くための在留資格だ。 特定技能は2019年4月から始まった制度で、特定産業分野に対する相当程度の知識や技能を持つ外国人を受け入れる在留資格である。取得するには日本語能力試験、分野別技能試験(学科と実技)に合格しなければならない。 特定技能1号は、外食業のほかに介護や宿泊など16分野で働くことができる。分野ごとに従事できる仕事内容が決まっていて、外食業では調理、接客、店舗管理ができる。 日本で在留できる期間は通算で最大5年なので、モスフードサービスは日本で働きながらさらに先の在留資格である「特定技能2号」の資格取得も支援している。 特定技能2号は、1号から介護、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業を除いた11分野で働くことができる。取得するにはやはり試験に合格することが必要だ。従事できる業務内容の範囲も広がる。外食業でいえば、1号の「調理、接客、店舗管理」に加えて「店舗経営」も可能になる。つまり店長にもなることができる。在留期間を更新していけば長く定住することも可能で、本国の家族を呼び寄せることもできる。 「モスフードサービスの直営店などで働くベトナム人従業員は79名になり、全体の2割を超えました。特定技能2号合格者も10名います。受け入れ店舗で評価のアンケートをしたところ、『仕事の覚えが早い』が80%でした。日本語上達がキモですね」(川越さん)
チャンさんもすでに特定技能2号を取得した。光が丘IMA店店長の水島遼太郎さんは、チャンさんが異動してきた当初、接し方に迷ったという。 「お店が人手不足だったので、本社からチャンさんが応援として来られました。でも一時的な人手不足解消のための人員なのか、彼のキャリアアップも考えるべきなのか悩みました。本社に問い合わせると『幹部候補生として指導してほしい』とのことでした」 そこで水島さんはチャンさんに「これからキャストさん(注:パートで働く人たち)への連絡はチャンさんからすること。キャストさんの信頼を得ることが大事だよ」と伝えた。チャンさんは「日本とベトナムでは衛生観念が違います。お店で働いていて、殺菌のルールが細かくて覚えるのに大変でした」という。一方で、建設現場ではなかったやりがいも感じている。 「お客さんが笑顔で『ごちそうさま』『おいしかったよ』と言って帰られること。建設現場ではお客さんと接することがなかったので、この仕事を選んで良かった」 今では休日に水島さんとチャンさんは一緒にベトナム料理を食べに行く仲に。社内の店長資格試験に向けての努力も怠らない。 「店長に経費削減の仕方を質問したり、休みの日にはモスの店舗に食べに行ったりして勉強しています」(チャンさん)
広がる誤情報「わざわざ外国から呼んでいるのが実際」
外食産業では、モスフードサービスのように外国人社員に特定技能の資格取得を支援して、将来の店長候補にする動きが増えている。 外食企業で作る日本フードサービス協会では、特定技能1号、2号の試験対策用のテキストを各国言語で作成し、ホームページで無料配布している。同協会によれば、外食産業の人手不足感は強い。 「外食産業は、有効求人倍率・欠員率が他産業よりも高く、人手不足の状況が続いています。そこで外国人の方々が外食業分野で働くために必要となる基本的な知識・技能について、会員の要望などを踏まえ、外食産業界を振興する立場としてテキストを作成しました。テキストの作成にあたっては、外食企業・外食関係団体・学識経験者の協力を得ています」(同協会担当者) 厚生労働省の調査によると、外食を含む「宿泊業・飲食サービス業」の欠員率は4.8%で、全産業計の2.6%より高い水準にある(2025年6月末)。 出入国在留管理庁の資料によれば、外食業における特定技能1号在留外国人数は3万5771人、2号が510人となっている(同前)。2号取得者が少ないのは、外食業が2号の対象分野となったのが2023年から、という事情からである。 特定技能2号の試験はかなり難関だ。店舗業務に習熟して日本語能力も高く、店長としても働ける特定技能2号取得の外国人材を求めている外食企業は多い。
ベトナムで日本に向けた人材の送り出し機関を運営している「つばき人材育成有限会社」の五百部敏行さんは、「外食業で特定技能2号の資格を取れる方は優秀だと思うし、日本企業がそういう人材を欲しがるのもわかります」と話す。 五百部さんは2020年にベトナム政府からライセンスを受けて、のべ1000人ほどのベトナム人人材を日本に送り出してきた。五百部さんが懸念するのは、SNSなどで在留外国人についての誤った情報が広まることによって、外国人材を雇用している企業などがいわれのない不利益を被ることだ。 「たとえば、日本の労働者が低賃金で働く外国人労働者から仕事を奪われているという見方がありますが、全くの見当違いです。単純に考えて日本語が話せる日本人のほうがいいに決まっていますから。補助金がもらえるというのも間違っています。企業がお金と労力を負担してわざわざ外国から働き手を呼んでいるというのが実際です」
冒頭のモスフードサービスの川越さんは、昨年の参院選後、外国人に対する世の中の風当たりが厳しくなったと感じる場面があるという。 「ベトナム人社員のための社宅の借り上げが難しくなりました。決まっていたのに直前にキャンセルになったり、『どんな人が入居するのか、面接をしたい』と言われたり、今までなかったことです」 また、法律の定めは必ずしも企業のニーズや現場の実態と一致しない。川越さんは、「たとえば、特定技能2号で可能な範囲の仕事内容もよくわからないところがあります」と指摘する。 出入国在留管理庁のホームページによると、特定技能2号ができる仕事の範囲について、1号でもできる《調理、接客、店舗管理》に加えて《店舗経営》があり、《店舗の経営分析、経営管理、契約に関する事務等》と例示されている。 「店長など店舗周りの仕事ができるのはわかりますが、店長より一段上で複数の店舗を担当するスーパーバイザーや東南アジアの店舗向けの商品開発などの仕事をまかせていいのか。まだ制度が始まったばかりで、法的にどこまで許されるのかわからないことがあります」
管理の対象ではなく「一緒に働く人」のための制度に
川越さんも水島さんも、苦労はありながらも、ベトナム人社員を仲間として迎え入れようとしている。 特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」共同代表理事で、日本に在住する外国人の支援を行う鳥井一平さんは、現在の状況をこう見る。 「私たちとともに働いて生活をする仲間として、外国人労働者との共生を探っていく意識は、事業主の中にも、地方の自治体の中にも始まっているんですよ」 鳥井さんのところには、外国人からだけでなく、彼らと仕事がしたい企業、業界からの相談も寄せられる。 「外国人の雇用を考えている企業からは、たとえば外国人でも通える病院はどこか、子どもの就学は可能なのか、日本語はどこで勉強できるのか、といった問い合わせが来ます。私はこうしたサポートも本来は政府・自治体がやるべきことだと思いますが、現状は地域のボランティアや企業がやっている」
日本に来て働く外国人へのサポートが薄いのは、日本の在留管理制度が「働く人のための制度」になっていないからだと、鳥井さんは指摘する。 「たとえば特定技能制度は入国管理局(現・出入国在留管理庁)の主導で作られて、労働を考える厚生労働省はほとんどかかわれなかった。入管庁では外国人は管理する対象でしかない。制度が人間としての労働者の設計になっていないことが、本質的な問題です」 外国人を在留資格で「管理」することに集中しすぎて、語学の習得、子どもの就学など、彼らが日本で生活していくための生活の基盤が疎かになっている、と鳥井さんは考えている。 「日本にいる外国人労働者の方たちは国連の定義によると『移民』です。日本に移民はすでにいるのに、まるでその人たちがいないかのように扱ってきたのが日本政府です。移民政策を正面から議論すべきときが来ています」 風説に惑わされず、一緒に働いている人を仲間として尊重する空気の醸成が必要だ。
—— 神田憲行(かんだ・のりゆき) 1963年、大阪市生まれ。関西大学法学部卒業。師匠はジャーナリストの故・黒田清氏。昭和からフリーライターの仕事を始めて現在に至る。主な著書に『ハノイの純情、サイゴンの夢』、『横浜vs.PL学園』(共著)、『「謎」の進学校 麻布の教え』、将棋の森信雄一門をテーマにした『一門』など。 「#日本社会と外国人」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2024年末の在留外国人数は前年より約11%増え、約377万人。日本の人口に占める割合は約3%です。訪日外国人旅行者も年々増加し、2024年には過去最高を記録しました。今後、日本社会は外国人とどう向き合い、どのような関係を築いていけばよいのでしょうか。さまざまな事例と共に考えます。
(YAHOO!ニュース 参照)
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